のーたいとる

KADOKAWA✕はてな より今冬リリース予定の新・小説サイト http://kaku-yomu.kadokawa.jp/ 第一回のコンテストに参加するための準備ブログ。習作、雑記などをアップ予定です。

葛藤① ミステリー

ジャンル:ミステリー ハルヒSS
タイトル:Case1 被害者 朝比奈みくる
 
放課後。部室の扉を開くとそこには見るも無残な姿となった朝比奈さんが横たわっていた。
姿見の前で半裸に剥かれ額には肉の文字、口元には泥棒ヒゲ、むきだしになったふとももやおなかに悲しくなるくらい幼稚で卑猥な落書きをされた姿で…!
「あ、朝比奈さーん!」
急いで駆け寄る。
脈はある。ほっとしたのも束の間。新たな事実に気付き、俺は怒りに震える。なんてことしやがる。
「油性じゃあないか…これ」
野郎…人でなしめ!
犯人は嫌がる朝比奈さんに油性マジックでボディペイントを施し、その姿を無理やり鏡で見せつけたのだろう。おそらく朝比奈さんはそのショックで気絶。今に至るというわけか…。
 

本当なら犯人を今すぐぶん殴ってやりたい。しかし、それはできない。悔しいかな犯人の検討が皆目つかん。

 
部室を見渡す。
動転して気づかなかったが、すでに他のメンバーもいる。
長門は相変わらずの無表情。しかし大切な本を取り落としているのを俺は見逃さない。古泉の顔にいつもの笑顔はなく、二人とも動揺を隠せないようだ。
そして…ハルヒは朝比奈さんのそばの床にへたりこんでいた。小刻みに震え、半開きの口からうわ言のように何事かを呟き、瞳を宙に泳がせている。その右手に剥き出しのマッキー(極太)を握りしめて…。
わからない…犯人はいったい誰なんだ!
時間は刻々とすぎていく。
こうしている間にも遠くへ逃げてしまっているかもしれない。
「あの…」
キョン
長門と古泉が同時に口を開く。
その拍子にへたりこんでいたハルヒが俺に気づく。
「キ、キョン…!? ちがうのよ、これは…」
悪戯を見つかった子供のような怯えきった瞳からは、今にも涙が落ちそうだ。
だが、
「言い訳なんかしなくていいぞ」
俺はぴしゃりといい放つ。
「…え?」
「その右手のマッキー(極太)はあれだろ? 倒れていた朝比奈さんを介抱しようと駆けよったら近くに落ちてたから思わず拾い上げた。そこに俺たちが現れ言い逃れ出来ない状況に…というよくあるあれだろう?」
そうとも。犯人は別にいるのだ。
 
昨日朝比奈さんと二人で買い物に行った時もハルヒは遠くから見守っていてくれていた。その後夕飯で奮発してこじゃれたレストランに入った時も変装したこいつが遠くの席に座っていたし、その後公園で星空を見上げながらちょっといい感じになった時も草むらからしてきたギリギリという聞きなれた歯ぎしりはハルヒのものに間違いない。
そんな心配性で仲間思いのこいつが、犯人であるはずがないのだ!
 
「俺は決めたぞ。犯人は必ずや見つけ出す」
毅然としていい放つ俺に、
「あ、あの、キョン! 私…」
ハルヒがなにかを訴える。混乱のあまりか言葉が出てこないようだ。
俺は気づく。
ハルヒまさか…いや、そうか。まったくお前ってやつは」
その震える小さな肩を両手でがっしとつかみ、俺はハルヒのうるんだ瞳をまっすぐに見つめる。
なんてこった。俺としたことが、こんな簡単なことがわからないなんて。
SOS団の総力を挙げて犯人を見つけ出そうというんだな! わかった!」
 
「無抵抗の婦女子をこんな目に合わせるとは生かしてはおけん! 犯人は犬畜生にも劣る腐れド外道だ! 変態だ性犯罪者だサイコパスだ! 俺たちみんなで血祭りに上げてくれよう!」
 
 
ーーその時のハルヒの顔を、今でも俺は忘れられない。凪のような無表情。
そのあとあいつは確かにーー笑ったんだ。
 
 
次の瞬間ハルヒはマッキー(極太)を一口に飲み込んだ。
ハルヒーーー!!!」
 
…あの時何がハルヒをそうさせたのかはわからない。朝比奈さんを助けられなかった罪悪感からかもしれないし、単にパニックに陥っていただけかもしれない。真相は闇の中だ。
その後閉鎖空間にはいままでにない数の神人が出現しなぜだか古泉はしばらく俺と口をきいてくれなかった。
まああとの諸々は長門がなんとかしてなんとかなった。
 
犯人は、今もこの学校に潜み続けている…。